【再掲載】RESOLUTE(リゾルト)/人と、デニムと、工業製品。

一本のジーンズがどうやって完成するのか。
言葉や工程の説明は何度か聞いた事はありましたが、実際に作っている所を目の当たりにしたのは初めてでした。

10年以上取り扱いのあるジーンズ専業ブランド「RESOLUTE」。
お邪魔したのはそんなRESOLUTEの生産を請け負う工場さんでしたが、これもまた想像してた何倍も気付きが多い経験でした。

例えば、ジーンズは工業製品の賜物と、デザイナーの林氏は仰られますが、人と人との結びつきによって生まれている点が非常に興味深かったです。

RESOLUTE(リゾルト)とは。

RESOLUTEは40年以上ジーンズファッションに携わってきた、業界の第一人者、林 芳亨(はやし よしゆき)氏による日本のジーンズブランド。
大手ジーンズメーカーから転職後、ジーンズをメインとしたメンズファッションブランド「Denime」を立ち上げる。
Denimeのデザイナーを引退後、念願であったジーンズのみの専業ブランド「RESOLUTE」をスタートさせ、今に至る。

まず、RESOLUTEは林氏の理想を形にすべく、①紡績(綿から糸にする工程)、インディゴ染織製織(糸から布地にする工程)③裁断縫製の工程全てを別の工場で行っている。何故、分けるのか。それは前述のように、理想とする(ヴィンテージの良い時代のLevi’s 501)ジーンズを作るためである。

90年代、爆発的にヒットしたヴィンテージ、レプリカブーム。その中心にいた林氏が作り上げた生地(ここではXXタイプの事を指す)は、それまで綺麗でフラットなものが良しとされていたデニムの常識を覆すものであった。

今回の工場見学に同行して下さった鶴田氏

大手ジーンズメーカー時代からの付き合いがある、大阪の生地問屋「藤原」出身の鶴田氏は、常に近くで林氏を見てきた。
「本当の意味でのヴィンテージを作りたかった」林氏の目標はLevi’sの501。Denime時代に代表されるザラザラとした、今でこそヴィンテージライクと呼ばれる生地は、実際の501のヴィンテージとは違った、独自の価値観のもと作られた、新しい時代のヴィンテージであった。

それは、アメリカのジーンズの歴史に存在しない特有の、凹凸の激しい生地で、迫力のある色落ちと、ゴワゴワとした質感が特徴だった。

鶴田氏は、林氏がその他にも影響を受けたものに、フランスのリベルトというブランドのジーンズを挙げた。
所謂フレンチアイビーと呼ばれるファッションのカテゴリーが全盛だった時代、それまで日本になかった細身のジーンズを合わせるファッション。
そのベースにあったのが501である。

「色落ちやファッション性など、それまでのジーンズというアイテムにはない発想だった」と鶴田氏は語る。

新しいものを作る使命感、世間の求めるデニム像とは裏腹に、自分が穿きたいジーンズは、常にLevi’s 501の66モデル。

林氏が所有するVintageの501 66Type

合わせるアイテムは、大人がカジュアルに着ることのできる、ボタンダウンやスイングトップ。俗に言うアイビーファッションだった。

RESOLUTEを立ち上げるに辺り、真っ先に浮かんだものは、やはり大好きな70年代のアイビーファッションのイメージ。501 66タイプだった。

ここからは、出来るだけ自分たちが見てきた目線のままお伝えできればと思うので、
文字通り紐解くように。出来上がった製品から、綿に戻るまでのお話を紹介しようと思う。

3.【縫製】新見ソーイングセンター

縫製工場は出来上がった生地を裁断し、縫い合わせる、言わば骨格作りと組みたての役割。
こちらの新見ソーイングセンターは、1997年創業。親会社は100年以上続き、元々リーバイスの指定工場だった背景から、LVCが生まれる前から日本製で作られてきた国産リーバイスの縫製を担っていた。
その為、多種多様なミシンを所有されており、ジーンズには欠かせないユニオンスペシャル(ワークウェアなど、厚みのある生地を縫うためのミシン)を、縫製箇所ごとに種類分けして所有する程。
RESOLUTEの裁断、縫製をすべて請け負う新見ソーイングセンターを、林氏は「RESOLUTEはここでないと縫えない」と断言する。
職人は全員日本人。

熟練の技術が必要となるため、一つの工程を熟知した職人を、長年に渡り育成されている。

「面倒くさいですよ、RESOLUTEは(笑)」そう語るのは社長の丸山さん。
RESOLUTEの強みの一つに、圧倒的なサイズの多さが代表される。

RESOLUTE 710 サイズ規格

 W26W27W28W29W30W31W32W33W34W36W38W40
L28   
L29  
L30  
L31
L32
L33
L34
L36

サイズ展開が豊富ということは、サイズごとにパターンが異なるという事。710に関しては1番多いもので、レングスが28~36まで8サイズ存在する。

そもそもここまでサイズが多くなかったRESOLUTEは、お客様の声から増えたそう。

毎年、全国を巡業し林氏が直々にフィッティングを行う「RESOLUTE FAIR」。そこでお話しする中で、お客様の声を吸い上げていく内に、段々とサイズが増えていったとか。そうしているうちに、世界一サイズが豊富なジーンズメーカーとなったというから、自身も情報収集を欠かさない。

本来、メーカーが直接卸先に聞きに回るような事を、エンドユーザーにも行っている。これは営業職時代に培ったものであろう。

話は戻り、サイズごとにパターンが異なるという事は、サイズによって裁断(生地から型紙を合わせてカッティングする)が必要。それも出来るだけサイズにばらつきが出ないよう、一度切り離してから一本一本パーツを揃えていく。この作業はどうしても手作業で行っていく為、時間を要する。

そうして切り離したパーツを縫っていく訳だが、RESOLUTEの規格は、ヴィンテージリーバイスをベースとしている為、ここでも林氏の拘りが要所要所で現れる。

特徴的なディテールを数点ご紹介しよう。
まずはインシーム(内股のステッチ)。
この部分は大抵のメーカーが8mm倒しで縫製を行うが、RESOLUTEはあえて6mmで行う。

また、ベルトループの仕様。ここも大抵は端から少し離れた位置を縫い付けているが、RESOLUTEはこういった細かい部分すらも妥協を許さない。

以上の点だけでも、RESOLUTEがシルエットだけを重視したジーンズメーカーではない事を、お分かり頂けたのではないだろうか。
目指したのは究極のジーンズ。シルエット、縫製仕様、あとで詳しくお伝えするが生地のクオリティ。

こうした細かい拘り(林氏は我儘という)の積み重ねも、何度も対話を重ねた賜物。
ひたむきで実直な姿勢と、月並みな言葉に聞こえるかもしれないが、その熱意を伝える事。

「顔を突き合わせて仕事をしないと、良い物ができない。そういったメーカーの商品は、自然とブランドの顔が出る。」

と丸山氏。話を聞いていく上で、仕事に対する強い誇りを感じたが、同時に顧客(林氏)のニーズを汲み取る姿勢がハッキリと伝わった。
長年の関係を積み重ねていく事で、自分の思う製品を理解し、作り上げていく事が可能になったのではないだろうか。

鶴田氏曰く「林君は、企画者でもあるが営業面でも優れている」。ただ、そこには一朝一夕ではない信頼関係が垣間見えた。

2.【製織】 シンヤ(株)

新見ソーイングセンターから、車で一時間程走らせたシンヤ(株)は、日本でも屈指の旧式力織機を扱う工場である。
70台程所有する旧式力織機の中でも、RESOLUTEをの生地を織るものは極めて古く、回転数も落として使用している。

そもそもこの旧式力織機。経糸に対して、緯糸をシャトルと呼ばれる木製の工具を走らせ、生地を生成する訳だが、回転数を遅らせることで一日に出来る生地のメーターも比例して少量となる。生産量だけを考えると、最新の機械で回転数が速いのが理想である。
※(回転数とは、1分間に何本緯糸を打つかの目安)

古い木製のシャトル。これが一日に何回転も緯糸を走らせる。

また、このシャトルを生成できるメーカーも、国内で一社のみとなるため非常に貴重なものである。

ここも古くからLevi’sの指定工場で、古くは昭和54年から生地を納めていた歴史があった。
そうした背景がある事から、一度は新しい機械を使用し段々と技術が発達するにつれ、表面がフラットで綺麗な仕上がりになるようになっていったが、
旧式の織機をあえて使用し、ヴィンテージのような素材感を作るために、前職時代から林氏が通いつめ、生地のサンプルを何度も何度もお願いしたそう。(これについては林氏の著書:日本のジーパンで語られている)

ただ、RESOLUTEで目標とする生地は、極めて当時のLevi’sに近いもの。林氏が作り出した90年代のザラメのような生地ではなく、表面に適度なザラ感があり、裏面はソフトな肌触り。毛羽がしっかりと立ち、雨のような縦の色落ちはありつつ、履き心地は損なわない程度のものだった。

色落ちサンプル。薄っすらと縦に色落ちが始まっている。

これには経糸にはノリが乗った糸を使用するが、緯糸には毛羽が立つ、撚りの甘い生成りの糸を使用している。

また、回転率を下げる事により、生地の表面に適度にザラ感が生まれ、穿いていく内に体に沿うように伸びが生じる。正に理想としていた生地の必須条件が、ここシンヤで完成される。古い織機は手入れを怠ればすぐにガタがくる。
シンヤ(株)の職人は、これを一日の始めの試運転の音だけで分かる。」と代表佐藤氏。

林師匠が「耳の締まり」と表現する、セルビッジ(アウトシームのキャタピラ状の色落ち)は、ミミまで綾織りになることによって生まれるもの。

通常平織りで仕上げると、耳のアタリはフラットな仕上がりになるそう。確かにエイジングサンプルを見てみると、どれもここが引き締まって見える。

デニム生地は、インディゴ染織した糸を綾織りにしている物を定義するが、このセルビッジのミミまで綾織りにしている事により、洗い込むとヴィンテージのような色落ちが楽しめる。
そうした所も林氏の拘りであり、彼の言う我儘である。

佐藤さんは、「長い付き合いだから、林さんの作りたいもの、言いたいことは分かるようになった」と言う。

そんなシンヤさんの生地。作りの丁寧さ、質の高さは業界内でも非常に有名な話。

林氏曰く、「元々Levi’sの指定工場だった所は品質に対する規格がしっかりしている背景がある。」

どうしてもインポート(特にアメリカに本社を置く)メーカーは、良い意味で大味な印象があるが、
Levi’sは作りの悪い工場の物はすべて契約を打ち切っていたということ。

生地にどこか不具合が出ないよう、自分がしっかりとチェックし、もし出た場合には社員全員で話をする。一ヵ所の織り傷=全てダメになってしまう。連帯責任でやっています。」と、佐藤氏。

私たち販売店が安心して販売できるのも、こうした生産者の厳しい品質管理のもとに成り立っていると実感した次第であった。

1.【紡績・染織】 カイハラ株式会社

そして最後に足を運んだのがこちらのカイハラ株式会社。
世界のカイハラ。徹底した品質管理、生産体制のもと、世界でも類を見ないジーンズの一貫生産体制を可能としたこちらは、広島県福山市に位置する。

そんなカイハラで、RESOLUTEは染色と、素材となる糸の紡績のみをここで行う。

紡績。今まで見学した人の手や旧式の機械を使用した生産方法がローテクであるならば、カイハラの生産背景は超ハイテク技術。

まずは素材となるアメリカ綿(ワタ)をベースとした糸を、細く撚るリング精紡という技術を使用し、糸にするところから始まる。
本来、ジーンズなど作業着用の生地に使用する糸は、強度を大前提としているが、
RESOLUTEのジーンズは工程の多いリング精紡にて作られる為、頑丈な糸が出来上がる。

その後の太さ、縮れ具合、ムラのありなしを全て機械で調整する事によって、素材となる糸が完成されていく。

理想的な糸(理想的な斑形状の紡績、それにRESOLUTEオリジナルの綺麗なインディゴロープ染色)の元はここで生まれる。

そして完成した糸を、RESOLUTE独自のブルーになるようにロープ染色で染め上げていく。このブルーをつくるために、何度も吟味し試行錯誤した。
四季のある日本において、湿気や気温差により、このロープ染織が非常に困難とされているが、徹底した品質管理のもと、ばらつきを少なくしている。
ロープ染織について、通常デニム用に染められた糸は、表面のみを染めて内側を白く残す(中白染)事で、表面が色落ちした際に、白い部分が浮き出る事により、表情が変化する。

インディゴ染料が空気中の酸素と結びつくことによって青く発色するが、その回数や空気に含ませる時間によって色味を決める事となる。

インディゴで染め上げた糸は経糸として使用する訳だが、そのままだと織機を通る事は不可能。ここで糊付け(生のジーンズの洗い前の、リジッドの状態に近い糸)することで、製織しやすくする。

ロープ染織、アメリカの米軍払い下げのジーンズを販売していた時代から、初の国産ジーンズを作ろうと各社が揃って開発に乗り出していた時代、
カイハラは手織正藍染備後絣を製造する織物業としての背景から、初の国産デニム生地を完成させる。ついに1973年にはアメリカからもオーダーが入るようになる。そう、お気付きかもしれないが、リーバイス社である。

RESOLUTEと分業体制

ここまでで三社の工場を訪問させて頂いたが、そのどれもが本国リーバイスに技術提供をしてきた背景を持つ。
何故、広島県、岡山県を跨ぐ分業体制を選んだか。紡績から縫製まで一貫して作り上げる事の出来るメーカーは多くはないが存在する。

そうする事でコストを削減する事もできたはずだ。

そもそも、ジーンズにコストダウンを求めるメーカーが多い中で、RESOLUTEはそこに重きを置いていない。

林さんがジーンズの価値を高めた」。日本のカジュアル衣料を長年見てきた鶴田氏曰く、80年代ジーンズが7000円後半〜8000円台が当たり前だった時代に、ドゥニームは2万円前後のジーンズを販売した。

土台となるフィールドは既にこの時に作り上げていた訳であるが、ジーンズ専業ブランドを立ち上げる際に、より一層ブラッシュアップを行なった。

RESOLUTEが、分業体制を一貫して貫く理由は、どの工場もそれぞれの分野のスペシャリストであること。

その各分野のスペシャリストたちが口を揃えて言う「林さんが言うならやりましょう」という言葉。そこに一朝一夕では作り上げる事の出来ない、信頼関係を目の当たりにした。

それらを糸のように紡ぎ合わせて一本のジーンズの形にする。
ご存じの通り、RESOLUTEは林氏が大きく貢献したレプリカブームとは違った、全く新しいジーンズの形である。
シルエットを重視し、蘊蓄に焦点を当てたブランドではない事は、お持ちである皆様が一番ご存じのはず。
ヴィンテージライクなレプリカの時代から、当時の製法を追い求め、穿く人の理想の一本を選べる豊富なサイズ展開を可能とした一つのジーンズの完成形として生まれたブランドである。

そうした製品を10年以上作り続けるという事がどういうことか。文字通り変わってはいけない部分がブレることなく、いつの時代も毅然としている。

以前のインタビューで、林氏に尋ねたことがある。

Q.これからのRESOLUTEについて

「RESOLUTEはこれからも変わらんよ。理想はいつ行っても同じものが買える。始めた時と何も変われへん。それがお客さんにとっても一番幸せやろうし。
穿き手の着方が変わろうとも、やっぱりスタンダードなものやから何にでも合うことは変われへんし。逆にスタンダードなものって、あるようでないで。」

週刊ZABOU「毅然たる。/ HAYASHI YOSHIYUKI -今までと、これからの10年-」

変わることなく作り続けるRESOLUTEは、人と人との関りが大きく関係して完成する。
それぞれの生産者と、デザイナーが綿密に顔を合わせて作り上げる。そうして出来上がったのが究極のジーンズ。
これからもそこに変わりはない。

この記事を書いた人