深~いシューケア沼の世界(入門編)

こんにちは。
東京店スタッフの小坂です。

世の中には様々な沼がありますよね。
一度でも足を踏み入れたが最後、決して抜け出すことはかなわないような深い沼があちこちに散見されます。

ファッションも大きな沼の1つでしょう。
沼の奥底ではしゃいでいる人々を上から覗いていたら、足首を掴まれて沼に引きずり込まれる。
ふと気づけば、自分も立派な沼の住人となっていた。
……なんていうのは珍しい話ではありませんね。

今回お話させていただくのは、シューケア沼のお話です。
高校生の頃に革靴沼に入門して以降、すっかり沼の奥底の住人としての風格を身につけた気でおりました。
ところがどっこい、視線を下に落とすと更なる沼が待ち構えていたのです。

それこそがシューケア沼です。
あまりに深い沼だったので踏み入れることを躊躇していたのですが、シューケア沼の住人達があまりに楽しそうだったもので……
例にもよって、今となっては僕もシューケア沼の住人です。

今更この沼を抜け出すことは不可能ですし、こうなってしまっては、周囲の人々を沼に引きずり込んで、沼の奥底で一緒に楽しく過ごすより他にありません。
という訳で、このブログを読んでくださっている皆様。
覚悟してください。
僕は今から皆様を沼に引きずり込みます。

さて、シューケアと一口に申しましても、ケアの箇所は大きく3つに大別されます。
ずばり、アッパー、ソール、インソールです。

この内、インソールについてはご家庭でのケアが難しく、修理屋さん等にお持ち込みいただくのが定石ですので、今回は割愛いたします(たまに埃を掻き出してやるのが関の山です)。

アッパーはシューケアの花形ですね。
ケアしていて一番楽しい箇所ですし、見栄えもグッと良くなるので、お忙しい方はここだけでもお手入れなさってください。
アッパーに配された革の種類や状態に応じて適切なお手入れも変わりますので、一番気をつかうところでもあります。

目立たない割に存外大事だったりするのがソールのケアです。
ラバーソールの場合はお手入れが要らないのですが、レザーソールの場合は勝手が変わります。
栄養を含ませてやるとソールが柔らかくなりますので、歩き心地や耐久性に影響します。
革靴と末永く付き合っていきたいのであれば、決して軽んじてはいけない箇所です。

「軽んじてはいけない」とは申しますが、ソールのケアは結構手間だったりします。
僕はじっくり沼に引きずり込みたい派なので、これについては日を改めてご紹介させてください。

ケアの大枠を掴んでいただいたところで、実際に、僕の私物のケアにお付き合いいただきましょう。
自前の革靴とイチャイチャしていても胸を張って勤務の一環だと言えるのですから、つくづく幸せな仕事です。

ウィングチップのダービーをご用意しております。
革靴沼の住人でもあるものですからこの革靴への愛を語りたくてしょうがないのですが、今回の趣旨から外れてしまいますので割愛させていただきます。
個人のインスタではご紹介させていただこうと思っておりますので、フォローしていただけますと幸いです。
さしあたっては、ケアに関する必要最小限のディテールのみをご紹介させていただきます。

アッパーにはスコッチグレインレザーが配されています。
所謂、「型押し」という加工が施された革を指します。
ケアする上では気をつかう加工ではありませんので、シューケアとしても一般的なものを適用しましょう。

まずは靴紐を外してあげましょう。
ケアをする上では邪魔にしかなりませんからね。
ダービー(外羽根)は外す上で困ることはないでしょうが、オックスフォード(内羽根)の場合、無理に外そうとするとアッパーが傷みますので、革靴の様子を見ながら外してあげてください。

続いて、シューキーパーを入れてあげましょう。
靴の型崩れを予防してくれる他、屈曲した革を真っすぐにしてくれるので、クラック(革が裂けること)も予防してくれます。
お手入れの時だけでなく、着用した後は1~2日の間入れたままにしてあげると良いと思います。
また、足の汗を吸った革靴から湿気を吸ってくれる効果も馬鹿になりません。
プラスチックのものではこれを期待できませんので、木製のもの(シューツリー)がオススメです。

シューケアの基本のキは埃落としです。
着用時についてしまった塵、保管時についてしまった埃が革から油分を吸い上げてしまい、革の乾燥の原因となります。
どんな革靴であっても埃落としは定期的にしてあげましょう。
柔らかい馬毛ブラシが埃落としには最適です。
よくしなるので、溝等の細かいところにも毛が入りこんで埃を掻き出してくれます。

お次は汚れ落としです。
リムーバークロスステインリムーバーを染みこませたら、アッパーを撫でるようにして汚れを拭きとってあげましょう。
汚れを落としたい一心で強く拭くと、革が傷みますのでご注意ください(前科1犯)。

こちらがシューケアの要、クリームの塗布です。
革に油分や適度な水分を含ませてくれる他、クリームにロウ分が含まれているので、革をコーティングしてくれたり光沢感を増してくれます。
クリームに含まれる油分、水分、ロウ分の配合の比率でシューケアの仕上がりも変わるので、用途に応じて複数のクリームを使い分けるのがオススメです。
乾燥した革には油分、水分の多く含まれたクリームを塗布してあげましょう。

塗布する上ではペネトレイトブラシを用いるのが一般的です。
沼の奥底の住人は指で塗布します。
クリームを体温で緩めて、革への浸透性を高めようというわけです。
僕は通(ツウ)ぶりたいのでそのようにしていますが、あんまり意味はないと思います。
指を汚したくない方はブラシを用いましょう。

塗布したクリームの浸透を待ちます。
先に挙げたクリームの配合次第で革への浸透の具合も変わりますが、10分ほど待てば充分かと。
余談ですが、このブログの執筆にあたり、仕事中の大森さんに撮影を依頼しておりました。
浸透を待つ間、仕事に戻る大森さんを眺めておきましょう。

クリームが浸透したら、それを馴染ませてやるためにブラシをあてましょう。
コシのある豚毛ブラシはクリームを革の奥へと押しこんでくれます。
シューケアで最もやりがいのある瞬間です。
革が再び光沢を取り戻す様子を楽しみましょう。

ブラシをあててクリームを馴染ませたら、革に入りきらなかった余分なクリームをグローブクロスで拭きとってやります。
これをサボると、お気に入りのボトムスの裾が真っ黒になります(前科3犯)。

仕上げに撥水スプレーを吹きかけてやりましょう。
革の天敵である雨を弾いてくれる他、汚れが付着しづらくなります。
屋外で吹きかけるのが望ましいです。
今回は、撮影の都合から吹きかけたふりをしています。

仕上げに、靴紐を通し直しましょう。
この時、通し方をこれまでとは変えてみたりするのも一興かと。

仕上がりをご覧いただきましょう。
遠目には分かりづらいかも知れませんが、ケア後の方が革の黒の質感が深く、皺も柔らかくなっているのが見てとれます。

グッと寄ってみると、違いは一目瞭然です。
普段は左右とも一緒にケアしてしまうのでこのように比較することはないものですから、これ程の差があることに自分でも驚いています。
改めて、ケアの重要性を再認識しました。

さて、今回はシューケアとして最もベーシックなものをご紹介いたしました。
しかし、革の種類や状態によって適切なケアというものは変わるものです。
シューケアについてお悩みの方はどうぞお気軽にご相談ください。
更に申し上げますと、店頭に革靴をお持ち込みいただければ革の状態等も鑑みて適切なケアについてご案内させていただきますので、改めましてどうぞお気軽に!

さて、今回は皆様を沼の入口まで引きずり込みました。
ここから先は皆様の裁量です。
足首まで浸かるか、肩まで浸かるか、全身ドップリ浸かるか、はてさて、沼の奥底に過ごして引きずり込む側となるか。
願わくば、皆様も僕と一緒に沼の奥底の住人となっていただきたいものです。

それでは店頭でお待ちしております。
ありがとうございました!

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小坂

東京店スタッフの小坂です。
168cm 54kg、体型の近い方はサイズ感についてのお問い合わせもぜひ。
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