週刊ZABOU「熟成ニット/RINASCENTEのCASHWOOLセーター①」

その昔、各ハイブランドがこぞって使用した高級ウールがありました。
その素材はオーストラリア産のエクストラファインを原料とし、イタリアのゼニア・バルファ社で開発された特殊加工によって、
カシミアのような肌触り、ふくらみを持ち、メリノウールの糸の最高品質として認められるようになりました。

そんな最高級素材を冬の定番素材として使用し、大阪のニット会社からリリースされるブランドが「Rinascente(リナシェンテ)」です。
今回はRinascenteのメンズ企画・営業の渡邊さんにお話しをお聞きしました。

—まず、RINASCENTEの沿革から教えて下さい。

渡邊:「遡ると30年ほど前まで糸屋だった父が独立して出来た会社です。30年ほど前にCASH WOOLという素材がイタリアのゼニア・バルファという会社から誕生して、父を始めとする当時の糸屋がこぞってそれを超える糸を開発したのですが、、、ついにそれを超えるものは生まれず、以来ずっとうちの会社ではCASH WOOLを使い続けております。」

ゼニアバルファ社:1850年梳毛紡績工として設立。以降1980年頃にベストセラーとなるCASH WOOLを発表する。平均19.5マイクロンのエクストラファインメリノウール「CASH WOOL」はその品質だけでなく、当時誰も考えなかったストックサービスにより、幅広く利用されることとなる。

「Rinascenteは元々レディースからスタートしたブランドなのですが、お取引さんでも男性の方が多かったこともあってか、その方々や自分たちが着れるニットを作り始めたことが始まりです。」

—レディースがメインだったのですね。初耳でした。秋冬の定番素材となるキャッシュウールについて聞かせてください。高級素材ですが、他とどう差別化されますか?

渡邊「キャッシュウール、イタリアの老舗糸屋ゼニア・バルファ社の代表素材です。同社はイタリアの糸の展示会<Pitti Filati>でも圧倒的存在感で有名です。この糸の特徴ですが、オーストラリア産の最高級エクストラファインウールを、一度洗いをかけた後に熟成させ、そのあとに施されるバルファ社独自の加工によってできる糸です。これにより糸の表面が滑らかになるため、毛玉(ピリング)が出来にくくなります。防縮加工も施している為、縮みにくいというのも特徴の一つです。ひと昔前までは多くのブランドが使用していた糸です。」

ゼニアバルファ社のCASH WOOLを使用したRinascenteのニット。防縮加工を施された、洗っても縮まないニットです。
本来防縮加工をされた糸は羊毛の表面を削り取るため、ふくらみが損なわれますが、独自の加工方法によってふくらみや弾力を残したまま糸に仕上がるため、製品になった際に厚みのある着心地の良いニットとして着用できます。

—現在ではあまり耳にしない素材ですが、何か理由があるのでしょうか?


渡邊「キャッシュウールは高級素材でして、日本がバブルの頃、高級なものがよく売れた時代は使用するブランドが多かったのです。現在は中国製で、安価でそれなりの素材もでてきたこともあり、多くの消費者が素材や産地などを重視しなくなった為、埋もれてしまったのだと思います。」

—消費者の多くは素材より、ブランドやデザインを重視するようになったのですね。実際に私物で購入し着てみて思ったのが、本当に着心地が良い。その割にはお値段も手頃だと思いますが、何故でしょうか。

渡邊「私たちにとってなくてはならない存在なのが、このCASH WOOLという糸。ですので常時5~6トンを在庫としてストックしているのもあります。これだけキャッシュウールを持っているニットメーカーは珍しく、恐らく日本では一番かと思います。また、CASH WOOLは梳毛なので、紡毛と違って消費期限がありません。一度に多く在庫を持つことでコストを下げられるのです。その分、糸を製品にする際にホールガーメント(継ぎ目のない丸編み)にしたりと、商品自体のクオリティを上げられます。」

—本当に欠かせない素材なのですね。

渡邊「はい。ただ、僕たちもストックしているとは言えども、足りなくなる色も出てきます。そんな中、昨年のイタリアでの感染爆発。ロックダウン時には、バルファ社も例外ではなく工場もストップしてしまいました。」

—では昨年は生産量も十分ではなかったのでしょうか?

渡邊「ただ、バルファ社の方でストックがあったそうで、その期間中に隠れて日本に出荷してくれたりと、僕たちも製品を作り続ける事が出来、本当に助かりました。」

—渡辺さんと言えばインスタ。詳しすぎる商品解説を僕たちも参考にさせて頂いております。

渡邊「昨年はコロナで色んな事があり、空いた時間で始めたインスタ。元々は前の会社の後輩が、うちのニットを買いに来てくれた時”ウールって何?”と言っていた事にショックを受けて、、、それでもっとニットというところから広めていけたらという思いでインスタは更新しています。最近はだいぶブレていますが(笑)」

—テーマがあると、話に説得力があって良いと思います(笑)話は戻りまして、CASH WOOLについて幾つか質問させてください。商品の企画は渡邊さんがお1人でされているんですか?

渡邊「基本的に僕と社長で決めていきます。テーマはその時々によって違いますが、社長の私物のニットがベースになっていたりしますが、国は様々ですね。」

渡邊「色を選ぶ作業が一番楽しいです。これはうちが持っているキャッシュウールのカラースワッチなのですが、緑のテープが貼ってあるのが別注色。つまりはほとんどが別注となります。この中から色を当て込むのですが、昨年はキャッシュウールが中々入らないこともあって、今まで使わなかったカラーも多く出しました。これだけ小さいとやってみて気づくことも多くあり、製品になることで意外と良い色が多いなっていうのに気付けた良い収穫でした。」

—本当に物凄い量ですね。やはり渡邊さんは昔からニットは良く着ていた方ですか?

渡邊「僕は若い頃はどちらかと言うとストリート系の服装が多くて、あまり着てこなかったですね。」

—それは意外。着こなしから見ても着慣れている感が凄くて。

渡邊「ありがとうございます(笑)あるとき、自分が好きなブランドからとてもカッコ良いニットがリリースされて、そこからのめり込んでいきました。ですので、家業のニット会社に就職する事もその当時からすると、思ってもみなかった。」

—今後の展開が更に楽しみになって参りましたRinascente。今後のプランはどのようにお考えでしょうか?

渡邊「約30年間ブランドさんに向けてデザイン込みの提案、生産を言わば黒子として動いてきました。そのためデザインの拘りや素材の良さを直接発信する事が出来なかったのです。Rinascenteとしてブランドを始めたことによって、拘りを直接伝えることが出来るようになり、少しずつではあるが興味を持って頂く方も増えました。」

渡邊さんの巻き物コレクション。「目に入れば買ってしまう。基本的にニットを着る時はセットです。」というほど大の巻き物好き。

「Rinascenteはコーディネートの主役を目指しておりません。他のアイテムを邪魔せず、ポイントとなる一癖あるデザインで着た人とコーディネートの品を上げる。気が付けばそこにいる、のような助演をこれからも目指していきたいです。」

—ご友人たちにもご好評だとか(笑)

渡邊「そうですね(笑)服装の個性もバラバラな友人たちにも好評で、その人のスタイルに溶け込むようなデザインと言うのはある意味成功なのかなと(笑)そんな風に、それぞれジャンルや年齢、性別バラバラの人たちが集まった時に、Rinascenteのニットが被っていたら最高だなと思います。クオリティには自信があるので、良いものを知っているファッション好きな方々に勿論着てほしいですが、あまりニットに馴染みのなかった方々や、若い世代の方々に来て頂き、チクチクしたり、手入れが手間と言う今までのニットの常識を覆す、本物のニットの良さや素材の良さを感じて頂きたいですね。」

—渡辺さん、ありがとうございました。

さて、次回はRinascenteの今季のラインナップを渡邊さんに解説して頂きます。
素材だけでなく、それを最大限に引き延ばすシルエットやパターンにも拘りがあるRinascenteのニットをどうぞお楽しみに。

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